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美容室独立ノウハウ美容室開業時の融資審査では職務経歴の何を確認されている?
美容室の開業には一定の資金が必要です。もちろん開業資金を全額自分が用意できることが理想ですが、足らない場合には金融機関から借りることも検討しなければなりません。
ところが開業者がいきなり近くの銀行等、民間金融機関に借入れの依頼に行っても多くの金融機関は前向きになってくれません。 ほとんどの民間金融機関は実績主義なので、事業実績のない開業者には融資に消極的だからです。
そんなときでも例外なのが日本政策金融公庫です。国の公的機関である日本政策金融公庫は、経済の振興、雇用の創出を融資の根幹にしているので、それらの実現につながる新規開業資金の融資にも積極的に応えてくれます。
ただし公庫融資にも審査があり、開業者は様々な視点から質問を受けることになります。またその質問の多くは開業者が公庫に出した創業計画書からなされますが、質問内容は担当者によって様々です。
そこで今回は、創業計画書の項目の中から“職務経歴書”に注目して、審査では担当者はどんな点に注目しているか、行う質問から何を確認したいのかなど、詳しく解説します。担当者が聞きたい質問とその意図が分かっているだけでも開業者は落ち着いて質問に答えることができます。
QANAETE融資コンテンツ担当・nobu-shige
地方銀行で30年勤めた元銀行員。銀行員時代は基幹店舗での勤務歴が長く、営業畑中心に事業融資から個人ローンまで幅広く融資経験を持っています。また銀行から新規企業融資開拓チームにも選ばれ中小企業融資の最先端で仕事をしてきました。本店での勤務もあるので労務問題や福利諸制度も詳しいです。銀行員時代に培った経験と知恵を盛り込んだ読者に役立つ記事を提供します。
そもそも、どうして職務経歴書が必要なのか?
職務経歴書、公庫の創業計画書では「2経営者の略歴等」と言う欄で詳細を記載する必要がありますが、そもそもどうして職務経歴書が必要なのでしょうか?
公庫が審査で職務経歴書が必要な理由は、開業者の職務経歴を確認することで開業後の成功の可能性を探りたいからです。開業者の職務経歴をチェックすれば、最低限、開業者が業界にどれだけ関連した知識を持っているか、どんな体験を重ねてきたかが分かります。
公庫担当者は融資の判定者としてはプロでも、新規開業者が属する業界を深く知っている方ばかりではありません。それだけに開業予定者の職務経歴を確認することで、開業後の成功ストーリーがどれぐらいあるのか、公庫担当者でもイメージできるようになります。
職務経歴書の内容で公庫が見ているポイントはどこか?
では職務経歴書の内容で、美容室開業の場合に公庫担当者が見ているポイントはどのようなものなのでしょうか?
一言で言えば、美容室オーナーとしての資質があるかどうか、その一点だけだと言えます。そこから以下のような点を詳しく確認するのです。
前職で美容師としてキャリアがあったかどうか
「前職で美容師として働いた経験があったかどうか」これは美容室融資の場合、公庫担当者が最も重視する1点です。美容室は開業前に税務署への開業届が必要とか、施術を行う美容師に資格が必要な色々と制約のある業種のひとつです。
それだけに開業者が美容師としてキャリアがあるだけでも、その経験が開業前後の様々な困難な場面で活かされてくるので強みがあると言えます。
前職が美容師だった場合、その勤務先名、勤務年数はどれぐらいか
前職が美容師だった場合、勤務先名を具体的に書いておくと、公庫は開業者が働いていたイメージを思い描くことができます。大きなチェーン店でスタッフのひとりとして顧客への施術中心に働いていたか、小規模なお店でオーナーの色々なサポートをしながら働いていたかどうかでも働き方は大きく違うからです。
また勤務年数に関しては、他業種なら一般的に長ければ長いほど有利ですが、美容師の場合は単純に長ければいいというわけでもありません。勤務年数が1年以内とか短すぎるのも問題ですが、通算で3~5年程度、勤務していれば美容師としてのキャリアはそれで十分です。
美容師として働いていたとき、美容室での主な役割は?
前職で美容師だった場合、お店でどんな役割を持たせてもらっていたか、公庫はそれを知りたいです。スタッフの一人だったか、あるいはリーダー的な役割を任されていたかなども重要な審査ポイントです。
勤務先でスタッフの一人として働いていた場合、直前に働いていたサロンではどれくらい固定客を持っていたか、個人としての毎月の売上げはどれぐらいだったか、お店にどれぐらい貢献していたかなどは美容師として本人の能力を測る物差しになります。
また美容師として得意な技術があれば、それをどのように開業に活かすか、公庫に説明するとき有利に働くでしょう。
一方、前職でスタッフリーダーを任されていた場合、具体的にどのような仕事に携わっていたか公庫担当者はきっと知りたいでしょう。たとえば、他の社員教育を行っていた、美容室の備品の仕入れ、販促部門の責任者など任されていたなどを職務経歴書に書いていると、担当者も強く興味を持ってさらに質問してきます。
美容師としてのキャリアがないとき、キャリア不足をどのようにカバーするのか
美容室開業者が全て美容師としてのキャリアがある方ばかりではありません。キャリアがない方が美容室を開業するとき、公庫はどのようにそのキャリア不足をカバーするのか、知りたがります。
開業者がいかにして美容業界の知識を手に入れたか、開業後にだれが美容室の中心スタッフとなるかなど公庫は質問してきます。
この場合、開業者の配偶者が美容師なら開業資金が借りられる可能性は高いです。なぜなら担当者も開業後、夫婦が協力して経営を盛り立てるイメージが持てるからです。
一方これがスタッフの一人が美容師資格を持って経営に参加するとなると話が違ってきます。かなりの確率で開業資金が借りられないリスクがあります。なぜなら開業後に人間関係のもつれから、突然その有資格者に辞められてしまったら美容室経営自体が成り立たなくなる可能性が高いからです。
やはり美容院経営は、開業者本人か、その親族が美容師資格を持っておくことが公庫には一番の説得材料でしょう。
以前に開業者に別の事業経験があり、今回美容室開業するときの注意ポイント
公庫の職務経歴書には、開業者に事業経験があり今も続けているか、または過去に廃業してあらためて美容室を始めるのかを記載する欄があります。
開業者に事業経験があれば美容室開業審査では有利なことが多いですが、一方過去に廃業歴があり、あらためて美容室を開業する場合、「過去に事業を失敗しているので、それを書かない方がいいのではないか」と思われる方もいることでしょう。
ただしそれは公庫の場合、あまり気にしないほうがいいかと思います。なぜなら公庫で職務経歴書に過去の事業経験を書かす主旨は、融資を公庫の「新規開業資金」で対応するか、「再挑戦支援資金(再チャレンジ資金)」で対応するかを見極めるためだからです。
そうでなければわざわざ過去の事業経験を書かす理由もないですよね。あまり深く考えすぎないのも職務経歴書を書く場合のコツです。
記載しておくと好印象になるのはどのような内容か?
職務経歴書の内容で公庫が主として見ているポイントは上記の各点ですが、それでは記載しておくと担当者に好印象になるのはどういう内容でしょうか?
ひとつは美容師関連で自分の持っている施術スキルを漏れなく書いておくことです。たとえば美容師免許、ネイル検定資格などがそれに当ります。
また美容室サロンを経営するとき、美容師である従業員の数が常時2名以上の場合は衛生管理のため「管理美容師」を置くことが定められているので、もし開業者がその資格を持っていたら職務経歴書には絶対書いておくほうが有利です。
そのほか、美容技術コンテストの参加履歴、優勝歴などもあれば自分をアピールできる材料としてぜひ記載しておきましょう。
その他、事業を開業するなら学歴を書いていたら審査で有利になることもありますが、美容室開業に関しては、学歴はあまり関係ないと思います。そのため特別学歴は記載する必要もないですが、もし美容専門学校を卒業していたら開業と関連があるので書いていた方が望ましいです。
提出前に確認しておきたいポイントとは?
職務経歴書を公庫に出す前に確認しておきたいことは、資格証明書など現物の確認です。提出後、公庫から美容師、管理美容師等の資格証明書を確認させてほしいと言われることもあります。
そのタイミングで資格証明書がどこかに紛失していて、すぐに出せないとなると公庫からの信用を失ってしまうリスクがあります。必ず公庫に確認を求められるということでもないですが、できれば事前に確認しておきたいポイントです。
活動歴が短い人は不利か?
開業者に美容師のキャリアがないとか、美容師としての活動歴が短い人が審査で不利かと言えばそうでもありません。
ただし美容室の開業はやや特殊な分野に当るため、開業者に経験が少ないと言うことは相対的に審査では不利になる可能性はあります。そのため不利な点を何かでカバーすることが必要で、融資を確実に受けるため、不動産等の担保を準備するとか、自己資金を多めに用意するなどの対策が必要になります。
頻繁に転職を重ねてきた人は開業者としては不利か?
開業前に頻繁に転職を重ねてきた方は「仕事が長続きしない方」という印象を公庫に持たれ、審査ではマイナスポイントになりがちです。ただしそれも相手次第。
開業者が転職を繰り返してきた意義・目的をうまく公庫に伝えることができれば、社会人経験が豊富として必ずしも不利にならないこともあります。要は開業者の公庫に対する伝え方次第です。
まとめ
公庫の職務履歴書のポイントについて元銀行員の立場から詳しく解説してきました。創業計画書を書く際の参考にして頂ければ幸いです。